次のうち意味的におかしい文章はどれでしょう?
- I will buy “a” table for my new life.
- I will buy “the” table for my new life.
- “A” table over there seems nice. I will buy “the” table for my new life.
- “The” table over there seems nice. I will buy “the” table for my new life.
- “A” table I bought yesterday was broken.
- “The” table I bought yesterday was broken.
- I will buy “a” table because “a” table in my room is broken.
- I will buy “a” table because “the” table in my room is broken.
- I will buy “the” table because “a” table in my room is broken.
- I will buy “the” table because “the” table in my room is broken.
使いこなせない理由
僕たち日本人は”a”と”the”に苦手意識がありますが、これは至極もっともなことです。日本語にはこうした冠詞という概念がありませんから、そもそも馴染みが無いんですね。馴染みないものを理解する際、まずルールを理解したいというのが日本人の性でしょう。ところが困ったことに、冠詞のルールは非常に曖昧で、「経験」だったり、「特定できるかできないか」だったり、聞く人によって千差万別です。文法より何倍もたちが悪い。自分なりに解釈して四苦八苦するうちに、次々と例外が出てきてしまう。行きつく先は、とりあえず冠詞が必要そうなものには”the”をつけておこうという諦めの境地であり、僕もその例に漏れませんでした。
ルールは曖昧なのか?
結論を言ってしまうと、ルールは曖昧です。しかしながらこの曖昧さは理解できる曖昧さであり、曖昧さの原因がわかってしまえば日本人でも冠詞を使いこなせることに気づきました。
話は変わりますが、言語は僕たちが混沌とした世界を理解するための窓であり、この窓を通し、僕たちは世界を理解できる形へ分節化(分類)しています。例えば、もし「猫」や「犬」といった単語がなければ、目の前に猫や犬がいてもそれが猫なのか犬なのか識別することはできません。つまり、猫なのか犬なのかわからない何かが目の前にいるわけです。これは非常に恐ろしいことです。僕たちは理解できないものに恐怖を抱きやすいのです。
また、自分ひとりが世界を理解できていてもあまり意味がありません。自分が理解した世界を他者と共有できることが、何かに怯えることなく毎日を暮らせる安心感に繋がっているのだと思います。”a”と”the”も、お互いが共有の理解に至るための印なのです。
曖昧で曖昧でないルール
前置きが長くなってしまいましたが、以下のルールに基づいて”a”と”the”は使い分けられています。
- “a”: 過去の会話や相互理解において、相手が認識していないと自分が思う事象を指す。
- “the”: 過去の会話や相互理解において、相手が認識していると自分が思う事象を指す。
ポイントは、相手がある事象を認識しているかいないかを判断するのは相手ではなく、自分であるという点です。つまり、相手が知らないだろうと自分が思えば”a”を使い、相手が知っているだろうと自分が思えば”the”を使います。自分がどう思うかによるという意味では曖昧ですが、このルール自体は明瞭です。そして、記憶障害でない限り、相手がある事象を認識しているかいないかの判断は多くの人の間で一致するため、”a”と”the”の使い分けも一致するのでしょう。理解を深めるために例を挙げてみます。
①では、女性が認識していないと男性が思うネコを指しているため、”a”を使っています。初めて話題に上がってきたネコであり、女性が認識していないのは当然ですね。一方、②では、”Alice In Wonderland”という相互理解の下、女性が認識していると男性が思うネコを指しているため、”the”を使っています。もし①のネコが事前に話題になっていれば、①を”the”にすることは可能です。ただし、”there is/are”は漠然と何かがある状態を指すため、”the”との相性が悪く、②では違った言い回しにしました。
クイズの答え
最後にクイズの答え合わせをしましょう。
- I will buy “a” table for my new life.
【正】「新生活にテーブルが欲しいの」と訳せます。相手は、自分がこれから買うであろうテーブルを知りません。 - I will buy “the” table for my new life.
【正】「新生活にあのテーブルが欲しいの」と訳せます。相手は、自分がこれから買うであろうテーブルを知っています。 - “A” table over there seems nice. I will buy “the” table for my new life.
【誤】文頭の”a”に違和感があります。相手が知っているテーブルを指しているため、”the”が適切です。 - “The” table over there seems nice. I will buy “the” table for my new life.
【正】「そこのテーブルいいね。新生活にあのテーブルを買おうかしら」と訳せます。丁度、買いたいテーブルが決まり、相手は、自分がこれから買うであろうテーブルを知っています。 - “A” table I bought yesterday was broken.
【誤】文頭の”a”に違和感があります。関係代名詞には事象を特定する効果があるため、冠詞は”the”を取ることがほとんどです。ただし、昨日複数のテーブルを買っていた等の背景があれば可能かもしれません。 - “The” table I bought yesterday was broken.
【正】「昨日買ったテーブル、壊れたの」と訳せます。相手は、壊れたテーブルを知っています(物理的に知らなくとも、少なくとも昨日壊れたテーブルという点で知っています)。 - I will buy “a” table because “a” table in my room is broken.
【正】「テーブルが壊れちゃったから、新しいのが欲しいの」と訳せます。相手は、自分がこれから買うであろうテーブルも、壊れたテーブルも知りません。 - I will buy “a” table because “the” table in my room is broken.
【正】「テーブルが壊れちゃったから、新しいのが欲しいの」と訳せます。相手は、自分がこれから買うであろうテーブルは知りませんが、壊れたテーブルは知っています。 - I will buy “the” table because “a” table in my room is broken.
【正】「テーブルが壊れちゃったから、あれを買おうかしら」と訳せます。相手は、自分がこれから買うであろうテーブルは知っていますが、壊れたテーブルは知りません。 - I will buy “the” table because “the” table in my room is broken.
【正】「テーブルが壊れちゃったから、あれを買おうかしら」と訳せます。相手は、自分がこれから買うであろうテーブルも、壊れたテーブルも知っています。
相手の目線に立って考えると”a”と”the”を上手く使い分けられるようになります。ただし、会話の際にこんなことを考えていると話せなくなってしまうので、文章を書く際に注意する程度にしましょう。そうすると、少しずつ会話へも応用できると思います。